――暗闇の中から声が聴こえてくる。
声の主は『μ』と名乗った。問われるがままに、あなたが自らの名を名乗ると、
μは得意げに、「辛い現実のことは忘れていい」「これからの生活を楽しんでいってね」と話を続ける。
辛い現実のこと……そう言われても既にあなたには何も思い出せない。
戸惑っているあなたをよそに「メビウスにようこそ」とμが世界の名を告げる。
その瞬間、あなたの意識は途切れた。

気づくとあなたは吉志舞(きしまい)高校にいた。霞がかかる意識の中、ぼんやりと周りの状況を見る。
どうやら卒業式の最中のようで、今まさに卒業生の挨拶が行われようとしている。
しばらくして記憶の整理がついてくる……あなたは吉志舞高校の1年生。
何不自由ない、理想通りの学園生活を送る青春まっただなかの高校生だ。

しばらく時間が経過し、入学式が始まった。
品行方正で成績優秀、周囲の信頼も篤いあなたは、
2年生代表として挨拶をすることになった。壇上にあがり祝辞を読む。

だが、続いて新入生代表として壇上にあがってきたのは、
つい先日、卒業生として答辞を読んだ『響 鍵介』という少年だった。
強烈な違和感を覚えたあなたの目に、鍵介の顔はバケモノのような姿で映る。
それだけではない。今まで普通に見えていたはずの生徒たちの中に
同じようなバケモノが混ざっていることに気がつく。
あなたは恐怖に耐えかねて、壇上を飛び降りて会場を抜け出し走りだした。

あなたは気づき、すべて思い出す。
ここが異世界であること。現実の存在。現実であなたが受けた苦痛。
……それでも帰らなければならないこと。

「まずいな、アイツ」「あの人も……」「見えてるんだ……」

何事もなかったかのように継続する式典の中、
会場を飛び出していったあなたを、数人の生徒だけが見つめていた。

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